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このページでは肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)という鎖骨の先端がもとの位置から外れてしまう状態に対する治療方法について解説いたします。

 

肩鎖関節脱臼というケガは、重症度にもよりますが、治療法もまだ定まっておらず、医師によっても意見が分かれることがよくあります。命に関わるケガではありませんので、治療法の最終決定は患者さん自身にゆだねられる面が大きいケガと言えます。そのため基本的な知識を理解し、治療法のメリット、デメリットを整理することは大きな意味があります。

 

肩の症状でお困りの患者さんは多く、肩鎖関節脱臼の患者さんを多く拝見しています。その中で私が特に得意とする関節鏡手術についてもご紹介いたします。

 

さらに関連する情報や詳しい情報をお知りになりたい方はこちらのホームページもご参照ください。

→肩とスポーツの整形外科専門医 歌島大輔オフィシャルサイト

肩鎖関節脱臼とは?

肩鎖関節脱臼とは?というお話から入りますが、そもそも肩鎖関節(けんさかんせつ)の存在を知らない人もいらっしゃいます。その名の通り肩甲骨と鎖骨からなる関節です。より正確には肩甲骨の肩峰(けんぽう)という部分と鎖骨の遠位端(えんいたん)という部分が向かい合って関節を作っています。

 

 

実際に触れてみましょう。
鎖骨の真ん中くらいから外側に弯曲した鎖骨を丁寧に触れていくと、肩の近くで出っ張るはずです。そこが鎖骨遠位端の出っ張りで、そのすぐ外側を丁寧に触れると一瞬凹んでいるはずです。指一本入らない凹みですが、そこが肩鎖関節です。そのさらに外側はもう肩甲骨の肩峰になっています。

 

 

通常の肩鎖関節は、この鎖骨遠位端、肩鎖関節、肩峰と、多少の凹凸があれどおおむね平坦です。しかし、肩鎖関節脱臼があると大抵は鎖骨が上に出っ張って、突出して、体表からもわかるくらいになっていることがあります。
つまり、たいていは肩甲骨の肩峰に対して、鎖骨が上に上がって、肩鎖関節がちゃんと向かい合っていない=外れてしまっている状態になっています。

 

この肩鎖関節脱臼で多い原因は、転倒などで直接肩を強打してしまったケースです。激しくぶつかり合うタイプのスポーツ(アメリカンフットボール、ラグビーなど)や格闘技系などで起こりやすいケガです。

肩鎖関節脱臼は靭帯が損傷している

この肩鎖関節は、向かい合う軟骨と軟骨が特に凹凸にはまり込むような構造はしていないので、容易に外れてしまいそうな形状をしています。しかし通常脱臼しないのは、強固な靭帯(じんたい)が支えているからです。肩鎖関節自体を取り囲むように支えている靭帯が「肩鎖靭帯(けんさじんたい)」と呼ばれており、肩鎖関節脱臼で最初に損傷する靭帯です。

 

しかし、もっと重要な靭帯があります。

それが「烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)」と言うもので、英語ではCoracoclavicular ligamentなので、われわれはよく「CC」と略して話します。

 

 

この烏口鎖骨靱帯は肩甲骨の烏口突起という鎖骨の下のほうに位置する突起と鎖骨を繋いでいて、この靭帯があるから、鎖骨が上に跳ね上がらないで済んでいると言えます。しかし、中等症以上の肩鎖関節脱臼では、この烏口鎖骨靱帯が損傷しているがゆえに鎖骨が上に跳ね上がってしまっています。

肩鎖関節脱臼の症状は?

この肩鎖関節脱臼の症状ですが、まずはシンプルに肩鎖関節部の痛みです。といっても、烏口鎖骨靱帯も損傷していたりしますから、ピンポイントに鎖骨の先端だけが痛いとは限りません。しかし、大抵は鎖骨の先端周囲の痛みであることが多いです。

 

 

肩を動かすときに肩鎖関節も動きますから、肩を挙げられない。特に、90度以上挙げようとすると痛みが走るというような症状が多いです。

 

あとは、当然見た目の変化として、鎖骨の出っ張りがあります。肩関節の脱臼などと違い、もとの形状的にはまり込んで安定していたものが脱臼したわけではなく、形状的にはいつ外れてもおかしくないのに靭帯が頑張っていた関節が脱臼したわけです。靭帯が損傷したままだと、鎖骨を押し込んで整復(元の位置に戻す)しても、また腕の重みで肩甲骨は下に下がり、僧帽筋という筋肉の力で鎖骨は上に上がる。と、結局また脱臼した状態になってしまいます。

 

つまり、通常の脱臼と違って、急いで整復して安静にしていれば治る・・・かと言うと、そういうわけではないのです。

肩鎖関節脱臼を放置した時の後遺症は?

ですから、手術しない場合などは肩鎖関節が脱臼したままの状態で生活したり、スポーツしている人も多いです。そういった場合に起こりうる後遺症について整理してみます。

脱臼した鎖骨の突出(美容上の問題)

まず脱臼したままですから、美容上というか、外観上、鎖骨の出っ張りが見えます。重症度によってはかなり目立ってしまうこともあります。

肩の筋力の軽度低下・不安感

中等症くらいまでは肩鎖関節脱臼を手術しなくても、肩の可動域の制限や痛みなどがない状態に回復することは多いと言われています。それは筋力も同様で、ものが持ち上げられないとか、日常生活で不便になるような筋力低下のリスクは少ないでしょう。しかし、スポーツ選手では筋力が落ちたという選手もいますし、また、重いものを持ち上げる時などに、持ち上げられないことはないけど、不安な感じが残っているという人もいます。

肩鎖関節部の痛み

痛みなく回復することも多いと言いましたが、そうは言っても、脱臼している部分が異常に動いてしまって、肩鎖関節部分の痛みが残ってしまうこともあり得ます。

腱板損傷などの併発

注意していただきたいのは、肩鎖関節脱臼というある程度大きな力が加わったが故のケガを起こしたときに、他の部位が問題ないかどうか気を配ることです。

 

肩の動きがイマイチ、動かすと肩に痛みがある・・・などの場合は腱板損傷を合併している可能性も否定できません。その場合はMRIで検出できますし、肩鎖関節脱臼の手術の場合、私は関節鏡で手術するので同時に修復することができます。

 

腱板損傷についてはこちらをご参照ください。
腱板損傷(腱板断裂)のリハビリから手術まで

 

しかし、そこを気にしなければ、長い間見逃されたケガとして、これまた後遺症のリスクが出てきます。

肩鎖関節脱臼の重症度分類

この肩鎖関節脱臼の治療法を考えるときに、1つ押さえておきたいのが重症度です。シンプルに重症になればなるほど、手術などの積極的な治療が必要になってくると考えていただいていいと思います。

 

その分類法の代表的なものがRockwood分類(ロックウッド分類)というものです。6つのtypeに分かれていて、type4,6が少し珍しい方向に脱臼してしまったもの。それ以外のtype1,2,3,5はその順番にだんだんと上に大きく脱臼してしまったもので、重症になっていきます。

 

  • type1:肩鎖関節の捻挫レベル。
  • type2:肩鎖関節亜脱臼
  • type3:肩鎖関節脱臼 鎖骨が上方に脱臼
  • type4:肩鎖関節脱臼 鎖骨が後方に脱臼(稀)
  • type5:肩鎖関節脱臼 鎖骨が元の2倍以上、上方に脱臼
  • type6:肩鎖関節脱臼 鎖骨が下方に脱臼(稀)

肩鎖関節脱臼の保存的治療法(手術しない)は?

一般的にはtype1,2の脱臼は、手術せずに保存的治療を行うことが多いです。

 

この場合の保存的治療の基本は、肩甲骨から腕の重さを支えてあげるということです。肩鎖関節脱臼は、僧帽筋という筋肉の力で鎖骨が上に上がるわけですが、相対的に肩甲骨が下がる理由は単純に重さです。

 

ですから、肩甲骨から腕の重さを三角巾などで支えてあげると、肩鎖関節への負担は減り、ある程度ですが、元の位置に近づきます。

 

 

さらに鎖骨を上から押さえ込むようにテーピングをしたり、肩鎖関節脱臼用に開発された装具を使用することもあります。

中等症以上を保存療法で整復維持は難しい

ただ、これらの保存的治療では、脱臼した肩鎖関節を元に戻して(整復)、それを維持するというのは難しいです。どうしても外からの治療の限界があるわけですね。

肩鎖関節脱臼の手術

そこでtype3以上の重症度の肩鎖関節脱臼では手術を考えることになります。

手術するか否かの判断基準

type4以上であれば、かなり重症な肩鎖関節脱臼なので後遺症のリスクが高まります。ですから、手術をより積極的にオススメしますが、type3はまだ意見が分かれます。データを取っても、手術したケースとしないケースで大きな差がでていないというのがその理由です。

 

また、時期も迷うポイントになります。肩鎖関節脱臼を受傷してから時間があまり経っていなければ(1ヶ月以内くらい)、手術のポイントは損傷した靭帯の自然治癒を促し、環境を整えることになります。しかし、時間が経ってしまっていれば、靭帯の自然治癒はもう手遅れですから、別の靭帯を移植したり、移行(走行を変える)したりする必要が出てきて、手術が少し大きくなります。

 

ただ、私の場合はどちらの場合でも関節鏡を中心とした低侵襲手術を行っていますので、時間が経ってしまっていても、しっかりとご相談をした上で、手術を行っています。

手術法1:関節鏡を中心とした靭帯の治療

それでは手術法の解説ですが、私が主に行っているのが、烏口鎖骨靱帯の走行に沿って強いテープ状の糸を通す方法です。これは鎖骨と烏口突起に穴をあけて、その穴を糸を通して、肩鎖関節を整復した状態で鎖骨の上で糸をしっかり結びます。一番大切な靭帯が烏口鎖骨靱帯ですから、ここを補強しようということです。

 

 

この作業を鎖骨の上に2–3cmの小さな創(きず)はできますが、それ以外は関節鏡で処置をします。

 

 

手術法2:肩鎖関節を金属で一定期間、固定しておく治療

肩鎖関節の脱臼しようとする力は大きいので、烏口鎖骨靱帯を補強しただけでは整復位を維持できないこともあります。そういう場合には肩鎖関節に針金(キルシュナー鋼線と呼ばれるワイヤー)を肩鎖関節に通すなどして、金属で固定します。これは2–3ヶ月を目安に除去します。

 

さらに創は大きくなりますが、鎖骨の上に金属プレートをおいてスクリューで固定することで、肩鎖関節を固定する手術を好んで行う先生もいらっしゃいます。

手術法3:靭帯を移植、移行する治療(時間が経ってしまった場合)

受傷から時間が経ってしまった場合は、手術法1の靭帯補強だけでは修復が期待できないので、他の靭帯を持ってくる必要があります。

 

私の場合は、烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)という烏口突起と肩峰(烏口鎖骨靱帯は烏口突起と鎖骨でしたね)を繋ぐ靭帯を肩峰部分で剥がして、鎖骨の先端に縫い付けてしまう方法をとります。

 

この烏口肩峰靱帯は関節鏡手術でよく処置をする靭帯なので、このケースでも関節鏡を使って靭帯を移行しています。

 

 

他には膝の腱を移植したり、ある程度しっかりと創をつくって、直視下に烏口肩峰靱帯を移行する手術などを行う先生が多いかと思います。

まとめ

肩鎖関節脱臼の基礎知識から治療法までを解説いたしました。少しでも参考になりましたら幸いです。

結局、手術をするか、しないか・・・という部分で迷うことが多いかと思いますので、ご相談も含めて受診を検討していただければと思います。

参考ホームページ

→肩とスポーツの整形外科専門医 歌島大輔オフィシャルサイト

→電子書籍:肩の正解を導き出す「SHOULDER RULE」

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