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腱板断裂の完全版|症状・原因・リハビリ・手術まで

肩の痛みを引き起こす病気には様々なものがありますが、このページでは腱板断裂につ
いて、当院・歌島医師が丁寧に解説します。

 

腱板断裂と言われると、多くの方がまずこう思うんじゃないでしょうか。

「え、肩の腱が切れているんですか?」

「じゃあ手術しないといけないんですか?」

「リハビリで治るんですか?」

「放っておいたらまずいんですか?」

このあたり、本当に不安になりますよね。

ただ、腱板断裂というのは、見つかった瞬間に全員が手術、という病気ではありません。一方で、「痛みが落ち着いたから大丈夫」と何年も放置していいとも言い切れません。 肩の痛み、夜間痛、腕が上がらない、力が入りにくい。そういった症状の裏に腱板断裂が隠れていることもありますし、逆に画像で腱板断裂が見つかっても、症状がほとんどない方もおられます。 ここがややこしいところなんですね。

腱板断裂は、肩の中で何が起きているのか。手術とリハビリはどう考えたらいいのか。注射や薬、PRPなどの再生医療っぽい治療はどうなのか。そして、手術をするなら何が大事なのか。 腱板断裂について、できるだけ一気に学び切れるように整理していきます。

※動画でも学んでいただけます

 

腱板断裂とは、肩のインナーマッスルの先端に穴が開いてくる状態です

腱板断裂を理解するには、まず「腱板って何なのか」から入った方がいいです。

僕がいつもお伝えしているのは、腱板というのは肩のインナーマッスルの先端の腱だということです。

インナーマッスルというのは、関節の近く、深いところを通っている筋肉たちです。肩に限らず、インナーマッスルは関節を動かすだけではなく、関節を安定させる働きがあります。

肩関節というのは、もともとすごく自由度が高い関節です。腕を前にも横にも後ろにも上にも動かせる。自由に動くぶん、不安定にもなりやすいんですね。

そこで腱板が大事になります。

腱板がしっかり働いてくれると、肩関節を安定させながら腕を動かせます。逆に腱板の働きが落ちると、三角筋や大胸筋のような表面の大きな筋肉、いわゆるアウターマッスルばかりが頑張ることになります。

すると、肩がグラグラしながら動くような状態になります。スムーズに上がらない。痛い。場合によっては、長い時間をかけて肩の関節そのものにも負担がかかっていく。そういうことが起こります。

腱板は4つの筋肉からできています

腱板を構成する筋肉は4つあります。

  • 前にあるのが肩甲下筋。
  • 上にあるのが棘上筋。
  • 後ろにあるのが棘下筋。
  • さらに後ろ下にあるのが小円筋。

この4つの筋肉が肩関節を取り囲んでいます。そして、その先端の腱が集まって、肩の骨にくっついている。これを腱板と呼びます。

 

「板」という字が入っている通り、腱板はアキレス腱のように細い一本の腱というより、平べったく広い腱の集まりです。

ですので、腱板断裂はアキレス腱断裂のように「バサッと真っ二つに切れる」というよりも、腱板に穴が開いてくるというイメージの方が近いです。

ここ、かなり大事です。

完全断裂は「完全に二つに分かれた」という意味ではありません

腱板断裂で「完全断裂」と言われると、ものすごく怖い響きがありますよね。

ただ、完全断裂というのは、腱が完全に二つに分かれてしまった、という意味ではありません。腱板に開いた穴が、関節の中と外を交通するような状態、つまり腱板の厚みを貫いている断裂を指します。

「全層断裂」とも言います。

部分断裂は、腱板の一部だけが傷んでいる状態。全層断裂、完全断裂は、穴が貫通している状態です。

もちろん全層断裂になると、自然に完全修復することは期待しにくくなります。ただ、全層断裂だから全員すぐ手術、という話でもありません。

ここから先は、症状、年齢、活動性、断裂の大きさ、筋肉の萎縮、外傷性かどうか、いろいろな要素を見て判断していきます。

腱板断裂の原因は「加齢」という土台に、外傷や負荷が重なることが多いです

腱板断裂の原因を考えるときは、僕は大きく2つに分けて見ています。

ひとつは、土台となる原因。

もうひとつは、引き金になる原因です。

土台があって、そこに何かのきっかけが重なる。そう考えると、腱板断裂はかなり理解しやすくなります。

腱板断裂の一番大きな土台は加齢です

腱板断裂の土台として、もっとも大きいのは年齢です。

これはもう、かなり分かりやすいデータがあります。

一般住民を対象にした超音波研究では、全層腱板断裂の有病率は20.7%で、年齢、外傷歴、利き腕が独立した危険因子として示されています[1]

別の住民健診の研究でも、全層断裂は全体で22.1%に認められました。年代別に見ると、50代で10.7%、60代で15.2%、70代で26.5%、80代で36.6%です[2]

つまり、肩が痛い人だけを集めた話ではないんです。肩が痛くない人も含めて調べると、年齢とともに腱板断裂はかなり増えていく。

この事実は、すごく大事です。

「腱板が切れています」と言われると、何か自分が悪いことをしたのかな、使いすぎたのかな、と感じる方もおられます。でも、腱板断裂には加齢性の変化がかなり関係しています。腱そのものが年齢とともに傷みやすくなるんですね。

系統的レビューでも、腱板疾患は加齢とともに増えることが示されています[3]

利き腕、喫煙、糖尿病、肥満なども腱板断裂と関係します

加齢ほど大きな土台ではありませんが、利き腕も腱板断裂と関係します[1]

ただし、利き腕じゃない側が切れている方も普通におられます。ですので、「利き腕だから切れた」と単純に決めつけるものではありません。

全身状態も関係します。

喫煙は腱板疾患と関連する因子として報告されています[4]。糖尿病、高血圧、脂質異常などの生活習慣病も腱板疾患と関連しますし、とくに糖尿病は腱板断裂との関連も比較的安定して示されています[5]。BMI上昇や肥満も、腱板疾患・腱板断裂と関連することが報告されています[6]

肩の腱というと、どうしても「肩だけの問題」に見えますよね。

でも実際には、血流、代謝、炎症、組織の修復力など、全身の状態と無関係ではありません。タバコ、糖尿病、肥満。こういった話は膝や腰だけではなく、肩にもつながってくるわけです。

とくに喫煙は、やめることで影響を減らせる可能性がある生活習慣です。言うは易しなのは重々承知していますが、禁煙外来などを使うのも、肩のためにも体全体のためにも、かなり意味があると思います。

頭より上での作業やスポーツは、腱板断裂の引き金になります

引き金として大きいのが、肩より上で腕を使う動作です。

いわゆるオーバーヘッド動作ですね。

野球のピッチング、テニスのサーブやスマッシュ、バレーボールのスパイク、バドミントン。スポーツではこういった動きが代表的です。

仕事でもあります。

頭上にペンキを塗る。高いところを掃除する。棚の上で作業する。腕を90度以上上げた状態で長く作業する。こういう負荷です。

肩より上での作業と肩障害の関連をまとめたレビューでは、90度を超える腕の挙上を伴う強い曝露で肩障害との関連がより明瞭に示されています[7]

もちろん、仕事だからやめられない、スポーツだから続けたい、ということはあります。そこは現実がありますよね。

ただ、頭上作業やオーバーヘッドスポーツは腱板に負荷がかかる。これは知っておいた方がいいです。

「やるな」ではなく、「リスクを理解して、肩のケアや治療を考えながら続ける」という発想です。

転倒や脱臼などの外傷でも腱板断裂は起こります

もうひとつ大きな引き金が外傷です。

転んで手をついた。

肩をぶつけた。

転びそうになって腕で支えた。

肩を脱臼した。

こういったことをきっかけに腱板が切れることがあります。

「転んだくらいで腱板って切れるんですか?」と思う方もおられるかもしれません。でも、単純な転倒でも急性腱板断裂は起こりうることが、文献レビューとバイオメカニクスの面から示されています[8]

とくに、ある程度のご年齢の方が転倒後に肩が上がらなくなった場合は、五十肩で片づけない方がいいです。

外傷後に肩が上がらない。

一時的に上がらなかった。

夜間痛が強い。

外にひねる力が明らかに落ちている。

こういうときは、腱板断裂を疑って、整形外科、それもできれば肩を得意とする医師に相談した方がいいです。

腱板断裂の症状は、痛みだけではなく「力が入らない」「夜眠れない」「自分では上がらない」も大事です

腱板断裂の症状というと、まず痛みを思い浮かべると思います。

もちろん痛みはよくあります。

ただ、腱板断裂の難しさは、痛みがない人もいるということです。

全層腱板断裂の65.3%が無症状だったという住民研究もあります[2]

だから、画像で切れているから必ず痛いわけではない。逆に、痛みが強いから必ず大きく切れているわけでもありません。

ここが、肩診療のややこしくて、でも大事なところです。

夜間痛は、腱板断裂でかなり大事な症状です

腱板断裂の痛みでよく問題になるのが夜間痛です。

夜、肩が痛くて眠れない。

痛みで起きてしまう。

痛い方の肩を下にして寝られない。

これは腱板断裂でも五十肩でも起こりますが、軽く見ない方がいい症状です。

症候性腱板断裂では睡眠障害がよく見られ、生活の質に直結する主要な症状であることが示されています[13]

眠れないというのは、体に相当悪いです。痛みだけの問題ではなく、日中の集中力、仕事、気分、回復力にも影響します。

夜間痛が続いている場合は、「そのうち治るかな」と我慢しすぎないでください。

外旋筋力の低下は、腱板断裂の重要なサインです

腱板は筋肉の先端の腱です。ですから、腱板が切れると筋肉の働きが落ちます。

特に見てほしいのが、外旋筋力です。

外旋というのは、小さく前ならえをした状態から、手を外に開く動きです。棘下筋や小円筋が関係します。

左右で比べてみてください。

小さく前ならえをして、外に開こうとする。反対の手でそれを内側に押さえて、力が入るかどうかを見る。左右差が明らかにあるか。痛みで力が入らないか。

腱板断裂では、外転筋力や外旋筋力の低下が診断の助けになることが報告されています[12]。また、一般住民の腱板断裂例を対象にした研究では、症状と関連する因子として外旋筋力低下などが示されています[10]

「痛い」だけでなく、「力が落ちた」という感覚は大事です。

重いものを持ち上げにくい。

外にひねる動きが弱い。

髪を洗う、服を着替える、手を背中に回すのがつらい。

こういう変化があれば、腱板断裂を疑う材料になります。

自分では上がらないのに、他人が上げると上がるのは重症サインです

腱板断裂でかなり注意したいのが、自分の力では腕が上がらないけれど、誰かに持ち上げてもらうと上がるという状態です。

これは偽性麻痺、仮性麻痺と呼ばれる状態に近いです。

大断裂に伴う仮性麻痺では、「受動的には動くのに、能動的な前方挙上が90度未満」という臨床像が使われています[14]

つまり、関節そのものが固まって動かないというより、腱板が働かないために自分では上げられない。

これはかなり大きな断裂のサインになることがあります。通常の腱板修復で対応できるのか、難しくなっているのか、早めに判断したいところです。

外傷後にこれが起きた場合は、特に早く相談してください。

腱板断裂で痛む場所は肩だけとは限りません。二の腕が痛いこともあります

腱板は肩の中にあります。

だから、痛む場所も肩の真ん中だけだと思われがちです。でも実際には、そうでもありません。

腱板断裂の痛みは、肩の前方や外側から、二の腕の外側に広がることがよくあります。

後上方腱板断裂285例を調べた研究では、痛みは主に肩前外側から上腕外側に分布し、肘を越えることはまれでした[16]

ここは患者さんにとってかなり大事です。

「二の腕が痛いから肩じゃない」とは言えません。

肩の病気で二の腕が痛くなることは、普通にあります。

肘より先の痛みやしびれが強いときは、首も考えます

一方で、肘より先まで痛い、しびれる、手までビリビリする。そうなると、首の病気もかなり考えます。

腱板断裂でも肘より先に症状が出る方はゼロではありません。ただ、肘より先が主役になってくると、頚椎由来、つまり首から来る神経症状を見た方がいいです。

肩痛と首由来の痛みを見分けるArm Squeeze Testという研究では、陽性率が頚椎神経根障害で96.7%、腱板断裂では3.87%でした[18]

もちろん、これだけで診断が決まるわけではありません。でも、「どこを動かすと痛いか」はものすごく基本です。

肩を動かして痛いなら肩の可能性が高い。

首を動かして腕や手に電気が走るなら首の可能性が出てくる。

当たり前すぎるようで、すごく大事な見方です。

大きい断裂ほど痛い、小さい断裂ほど軽い、とは限りません

これもよくある誤解です。

腱板断裂は、大きく切れているほど痛い。小さい断裂ならあまり痛くない。そう思いやすいですよね。

でも、痛みの強さと断裂の重症度は必ずしも一致しません。

症候性・非外傷性の全層腱板断裂393例を対象にした研究では、痛みの症状は断裂の重症度と相関しませんでした[17]

小さい部分断裂でも、かなり痛い方はおられます。逆に、大きな断裂でも痛みはそれほど強くない方もいます。

これは炎症の程度、体の反応、肩の使い方、神経の感受性など、いろいろな要素が絡みます。

僕の感覚としては、小さい断裂の方が体が「まだ何とか治そう」と頑張って、炎症が強く出て痛いこともあるんですね。大きくなると、体がある意味その状態に適応してしまって、痛みだけは落ち着くこともあります。

ただ、痛みが落ち着いたから断裂が治った、ではありません。ここは分けて考えたいところです。

腱板断裂は見た目では分からないことが多いです。ただし腫れや筋肉のやせには注意します

腱板断裂は、基本的には外から見ただけでは分かりません。

見た目は普通。

肩の形も普通。

腫れてもいない。

それでも中で腱板が切れていることはあります。

ですから、見た目が普通だから大丈夫、とは言えません。肩の動き、痛みの出方、筋力、MRIやエコーの評価が大事になります。

腱板断裂の診察では、視診から始めることの重要性が示されていますが、見た目の変化がないから断裂を否定できるわけではありません[19]

肩がぷよっと腫れる、水がたまることがあります

全層断裂になると、関節の中の液体が断裂部を通って外側、滑液包の方に流れ込むことがあります。

すると、肩の外側がぷよっと腫れる、水がたまるように見えることがあります。

全層腱板断裂に滑液包の液体貯留を伴った症例では、断裂を介して関節液が滑液包に流れ込む機序が説明されています[20]

ただし、赤く腫れている、熱を持っている、発熱がある、強烈に痛い。こういう場合は、単なる腱板断裂の腫れとして済ませてはいけません。

感染の可能性があります。

これは緊急性があります。早く診察して、水を抜いて調べたり、必要なら関節鏡で洗浄したりすることもあります。赤い腫れと熱は、迷わず相談してください。

背中側の筋肉がやせて見えることがあります

慢性的な腱板断裂では、背中側の筋肉がやせて見えることがあります。

特に棘下筋が萎縮すると、肩甲骨のところがへこんで見えたり、触ると骨がすぐ分かったりします。

左右で比べると分かりやすいです。

右肩が痛いなら、右と左の肩甲骨まわりを見比べる。明らかに片方がへこんでいる。筋肉が薄い。そういう場合は、長く続いた腱板断裂で筋肉が萎縮している可能性があります。

棘下筋萎縮は背面から見つけやすく、腱板断裂で見られる所見として整理されています[19]

ただ、両肩に断裂がある方は両方やせて見えるので、左右差だけでは分からないこともあります。

ポパイサインは腱板そのものではなく、上腕二頭筋長頭腱断裂のサインです

力こぶを作ったときに、力こぶが肘側に落ちたように見える。これをポパイサインと言います。

これは腱板が飛び出しているわけではありません。

多くは、上腕二頭筋長頭腱の断裂です[21]

上腕二頭筋は、長頭と短頭があります。長頭腱が肩の近くで切れると、力こぶが下に落ちたように見える。でも短頭が残っているので、肘はちゃんと曲がることが多いです。

ですので、ポパイサインそのものは、基本的には急いで縫わないことが多いです。日常生活やレクリエーションレベルのスポーツでは、大きな問題にならない方が多い。

ただし、ここで終わらせないでほしいんです。

上腕二頭筋長頭腱断裂の背景には、腱板病変が隠れていることが多いです。急性近位上腕二頭筋長頭腱断裂例では、MRIで93%に腱板病変が認められたという報告があります[22]。また、腱板断裂と上腕二頭筋長頭腱断裂には有意な関連があり、複数筋にまたがる全層断裂で長頭腱病変が増えることも報告されています[23]

「二頭筋は切れても放置でいいですよ」

この説明自体は間違いではないことが多いです。でも、その背景の腱板を見ずに本当に放置してしまうのは避けたいです。

ポパイサインが出たら、肩を得意とする医師に一度見てもらうのが安心です。

肩のてっぺんのこぶは、慢性腱板断裂と関係することがあります

鎖骨の先端、肩のてっぺんあたりにこぶができることがあります。

肩鎖関節の変形で出っ張ることもありますし、慢性的な大きな腱板断裂が背景にある場合、関節液が外に漏れて肩鎖関節の方に逃げ、肩鎖関節嚢胞を作ることもあります。

肩鎖関節嚢胞はまれですが、腱板断裂に関連することがあり、断裂部から肩峰下滑液包を経て肩鎖関節へ液体が抜ける「geyser sign」も報告されています[24][25]

ただのこぶと思っても、背景に肩の中の病変があることもあります。痛みや動かしにくさがあるなら、一度評価した方がいいです。

腱板断裂と言われたら、手術かリハビリかはその場で一つに決まりません

腱板断裂が見つかったとき、一番気になるのはここだと思います。

手術した方がいいのか。

リハビリでいいのか。

注射で何とかなるのか。

薬で治るのか。

答えは、腱板断裂が見つかった時点だけでは決まりません。

現在の年齢。

仕事やスポーツで肩をどれくらい使うか。

痛みの強さ。

夜眠れるか。

腕が上がるか。

外傷性か非外傷性か。

断裂の大きさ。

筋肉の萎縮や脂肪変性。

これから何年その肩を使っていきたいか。

こういったものを総合的に見ます。

腱板断裂の治療目標は、単に「画像上の穴をふさぐこと」ではありません。症状がなく、やりたいことができて、その状態ができるだけ長く続くことです。

ただし、断裂は時間とともに広がることがあります。痛みがないからといって、将来もずっと問題ないとは限りません。

無症候性腱板断裂を前向きに追跡した研究では、断裂が大きい肩ほど症状化しやすく、痛みが出ると肩機能や可動域も落ちていきました[15]。一般住民の縦断研究でも、運動時痛は断裂進行の独立因子とされています[9]

「今の痛み」と「長期の肩の寿命」。両方を見ていく必要があります。

腱板断裂の注射・薬・PRPは、穴をふさぐ治療ではありません

腱板断裂で注射はどうですか、薬はどうですか、PRPはどうですか、という相談はとても多いです。

ここは、偽医学の被害者ゼロという意味でも、かなり丁寧に整理したいところです。

ステロイド注射は痛みを和らげることはありますが、腱板をくっつける注射ではありません

腱板断裂の痛みに対して、ステロイド注射が効くことはあります。

炎症が強くて痛みが強いとき、ピンポイントに入るとかなり楽になる方もおられます。

ただし、これは対症療法です。

切れた腱板が注射でくっつくわけではありません。

痛みが強すぎてリハビリができない。夜眠れない。そういうときに、リハビリへつなぐ橋渡しとして使う。そういう位置づけが現実的だと思います。

将来手術を考える可能性がある方では、注射の回数やタイミングは慎重に考えた方がいいです。漫然と何回も打ち続けるものではありません。

痛み止めは「日常を守る盾」ですが、無理をするための道具ではありません

飲み薬、痛み止めはどうか。

これは、日常を守るための盾として使うのはありです。

夜眠れないほど痛い。

仕事がまったくできない。

どうしても今を乗り切らないといけない。

そういうときに、痛みを抑えて睡眠や生活を守ることは意味があります。

ただし、痛み止めを飲んで無理に使い続けるのはおすすめしません。

痛みは、肩が「それ以上やめて」と言っているサインでもあります。痛みを消して無理をして、断裂が広がる方向に使ってしまうのは避けたいです。

PRPや再生医療は、完全断裂を治す治療として期待しすぎない方がいいです

PRPは、自分の血液を採って、血小板由来の成分を濃縮し、傷んだ場所に戻す治療です。

再生医療の中では比較的受けやすい治療として語られることがあります。

部分断裂に対して、痛みや機能の改善を期待して試す余地がゼロとは言いません。ただ、完全断裂、全層断裂の穴がPRPでふさがる、という期待はかなり慎重に見た方がいいです。

「もしかしたら治るかもしれません」

「再生する可能性があります」

こういう言い方は、患者さんにとって魅力的に聞こえます。でも、どの論文で、どの断裂に、どれくらい効いたのか。そこを確認しないといけません。

少なくとも、完全断裂を根本的にふさぐ治療として、PRPや高額な幹細胞系治療に過度に期待するのは危険です。

根本的に穴をふさぐという意味では、現時点では手術が中心になります。

腱板断裂のリハビリは「切れた腱をくっつける」のではなく、残った機能をうまく使う治療です

腱板断裂のリハビリは、ものすごく大事です。

ただし、誤解してはいけないのは、リハビリで切れた腱板がくっつくわけではないということです。

リハビリの目的は、残っている腱板、肩甲骨まわりの筋肉、アウターマッスル、肩の使い方を整えて、腱板断裂がある中でも肩をうまく使える状態を作ることです。

つまり、穴を直接ふさぐ治療ではなく、肩全体の使い方を改善する治療です。

非外傷性の腱板断裂では、まずリハビリがうまくいく方も少なくありません

非外傷性、つまり転倒などの明確なきっかけがなく、徐々に傷んできた腱板断裂では、まず保存療法を試すことがあります。

非外傷性の症候性全層腱板断裂452例を対象にした研究では、6〜12週間の標準化された理学療法で患者立脚型アウトカムが改善し、2年追跡で手術に進んだのは4分の1未満でした[27]

さらに10年追跡のMOONコホートでは、10年間で手術に進んだのは27%で、手術しなかった群では改善した患者立脚型アウトカムが10年で低下しませんでした[28]

つまり、非外傷性の全層断裂でも、保存療法で長期に保てる方は少なくありません。

ただし、「だから全員リハビリで大丈夫」という意味ではありません。

保存療法がうまくいかない方は、比較的早い段階で見えてくることも多いです。同じことをだらだら何か月も続けて、断裂だけが広がってしまう。これは避けたいです。

リハビリの主戦場は自宅です

リハビリというと、病院やクリニックに通って、理学療法士さんにやってもらうもの、というイメージがあるかもしれません。

もちろん、専門家に見てもらうことは大事です。フォームを確認してもらう。やり方を修正してもらう。痛みや動きの変化を相談する。これはすごく意味があります。

でも、リハビリの主戦場は自宅です。

なぜかというと、毎日できるからです。

部分腱板断裂を対象にしたRCTでは、理学療法士監視下の運動群と、理学療法士が処方したホームエクササイズ群の両方で、8週間の可動域訓練、ストレッチ、筋力訓練により改善が見られました[29]

通院にはフォーム修正や微調整の価値があります。ただ、通院した日だけやって、家では何もしない。それではなかなか難しいです。

受け身ではダメです。

やってもらうリハビリだけで良くなる、というより、やり方を学んで自宅で続ける。そのうえで、時々修正してもらう。これが基本です。

リハビリは6〜12週、長くても3か月くらいで方向性を見たいです

腱板断裂のリハビリは、一週間で治るものではありません。

ただし、いつまでも同じメニューをだらだら続けるのも違います。

目安としては、6〜12週、つまり1か月半から3か月くらいで方向性を見たいです[27][28]

痛みが減っている。

夜眠れるようになった。

腕が上がりやすくなった。

力が戻ってきた。

日常生活で困らなくなってきた。

こういう変化があれば、そのまま続ける意味があります。

逆に、全然上がらない。夜間痛が続く。力が戻らない。痛みが強くてリハビリが進まない。こういう場合は、手術を含めてもう一度考えた方がいいです。

外傷性の腱板断裂は、非外傷性とは別枠で考えます

転んでから肩が上がらなくなった。

手をついた後から痛みが強い。

肩を脱臼した後から力が入らない。

こういう外傷性の腱板断裂は、非外傷性の変性断裂と同じように「まず長くリハビリで様子を見ましょう」とは言いにくいです。

急性外傷性の全層腱板断裂に対して少なくとも2か月の理学療法から始めた研究では、保存療法不成功は58%でした。複数腱断裂は失敗しやすく、最終的に手術へ移行した患者さんも多くいました[31]

外傷性の場合、その前までは腱板が機能していた可能性があります。つまり、早く修復すれば、より元の状態に近づけやすい場合があるんですね。

もちろん、外傷性なら全員すぐ手術という意味ではありません。ただ、外傷性は別枠で、早めに肩専門医と相談した方がいいです。

小中断裂でも、長期では手術が有利になることがあります

短期的に保存療法で良くなることと、長期でも同じように良いことは、別の話です。

3cm以下の小中断裂を対象に、腱板修復術と理学療法を比較した15年追跡では、修復術群の方がConstant score、ASES、痛み、無痛挙上角度で優れていました。理学療法のみ群の未修復断裂は、前後径で16.2mmから31.6mmへ拡大していました[32]

これはかなり大事な話です。

保存療法で今は何とかなる。

でも、断裂が広がっていく。

数年後、手術しようと思ったときには、治りにくい断裂になっている。

こういうことが起こり得ます。

特に若い方、高活動な方、仕事やスポーツで肩を長く使いたい方は、「今痛くないからいい」だけではなく、将来の肩機能も含めて相談した方がいいです。

腱板断裂を放置していいかは、痛みだけで決めない方がいいです

腱板断裂があっても、症状が軽い方はおられます。

痛み止めもいらない。

注射もいらない。

腕もそこそこ上がる。

生活にも困らない。

そうなると、つい放置したくなりますよね。

もちろん、何が何でも手術という話ではありません。症状が落ち着いていて、活動性や年齢、断裂の状態を見ても経過観察が妥当な方はいます。

ただし、本当の意味で何年も放置は避けたいです。

腱板断裂は、時間とともに広がることがあります[9][15][32]。穴が大きくなればなるほど、手術でふさいでも再断裂のリスクは上がります。筋肉が萎縮したり脂肪変性が進んだりすると、そもそも修復が難しくなることもあります。

ですので、明らかな部分断裂以上がある場合は、エコーやMRIで広がっていないか確認することが大事です。

最初は半年〜1年ごとに見る。

拡大が止まっていて症状も落ち着いているなら、間隔を空ける。

痛みが増えたら再評価する。

こんなふうに、放置ではなく「観察」していくイメージです。

腱板断裂の手術は、関節鏡で腱を骨に押しつけてくっつける手術です

腱板断裂の手術は、今は関節鏡手術が主流です。

関節鏡という小さなカメラを肩に入れて、画面を見ながら手術をします。傷はだいたい1〜1.5cmくらいの小さなものが複数です。手術後、傷がかなり目立ちにくい方も多いです。

では、中で何をしているのか。

腱板断裂は、腱が骨からはがれるように穴が開いてきます。ですので、手術では腱板を元の骨の場所に戻し、糸や人工靭帯のような強い材料で骨に押しつけます。

骨の中にはアンカーというネジのような固定具を入れます。そこについた糸で腱板を引き寄せ、骨にギューッと押しつける。

その状態で、腱と骨がくっつくのを待つわけです。

ここで大事なのは、腱と骨がくっつくには時間がかかるということです。骨折の骨と骨がくっつくよりも、腱と骨がくっつく方が時間がかかる印象です。

だから術後の装具やリハビリが大事になります。

麻酔は全身麻酔と神経ブロックを組み合わせることが多いです

腱板断裂の手術では、全身麻酔に加えて、首のところで神経ブロックを行うことが多いです。

手術中は眠っています。術後もしばらく痛みが軽いことが多いです。ただし、神経ブロックが切れてくると痛みが出ます。

鏡視下腱板修復のランダム化比較試験では、single-dose interscalene blockが手術当日の痛みを有意に軽減しました[39]

また、24,677例の後ろ向き解析では、全身麻酔単独、区域麻酔単独、両者併用を比較し、併用群で創部合併症や再入院が少なかったと報告されています[38]

患者さんには、僕は「結構痛いと思っておいてください」とお伝えすることが多いです。

痛いと思っていて、意外と痛くなかった。これはいいんです。

痛くないと思っていて、実際は痛かった。これはつらいです。

痛み方は断裂の大きさや炎症の状態、個人差でかなり変わります。だからこそ、痛み対策は最初からしっかり準備しておきたいです。

手術体位はビーチチェア位が多いですが、麻酔管理が大事です

肩の関節鏡手術では、ビーチチェア位といって、少し座ったような姿勢で手術することがあります。

完全に座るわけではなく、30度くらい上体を起こすようなイメージです。背中側からカメラを入れたり、肩の周囲を扱いやすくしたりするためです。

ビーチチェア位では、心臓より頭が上になります。そうすると脳の血流が減りやすい方向に働くので、血圧管理など麻酔管理がとても大事になります。

ビーチチェア位の肩手術60例の研究では、全身麻酔群はregional anesthesia+sedation群よりcerebral desaturation eventが明らかに多かったと報告されています[40]

患者さん自身が手術中の姿勢を気にする必要はあまりありません。寝ていますからね。

ただ、手術チームとしては、血圧、脳血流、手術時間、体位の角度などをかなり意識しています。無駄に手術を長くしないことも、その意味で大事です。

腱板断裂の縫い方は、シングルロー、ダブルロー、ブリッジングへ進化してきました

腱板断裂の手術には、いくつかの固定方法があります。

昔からあるのがシングルロー。

次にダブルロー。

そして、ブリッジング、あるいはsuture bridge、transosseous-equivalent repairと呼ばれる固定法です。

患者さんが細かい術式名を全部覚える必要はありません。

ただ、「どの方法でも同じ」ではありません。断裂の大きさや腱の状態に応じて、固定方法を選ぶことが大事です。

ダブルローやブリッジングは、腱板を面で押さえる発想です

シングルローは、骨の内側にアンカーを置いて腱板を固定する方法です。

ダブルローは、内側と外側にアンカーを置いて、より広い面で腱板を骨に押しつける方法です。

屍体研究では、ダブルローはシングルローよりgap形成が少なく、初期強度とstiffnessが高いと報告されています[41]

さらにtransosseous-equivalent repair、いわゆるブリッジング系の固定では、ダブルローよりpressurized contact areaとinterface pressureを高めた研究があります[42]。また、double rowと同程度のgap formation

で、ultimate failure loadを高めたという報告もあります[43]

つまり、ブリッジングは流行り言葉ではなく、腱板を骨に「面で押さえる」ための力学的な狙いがある方法なんですね。

小さい断裂ではシングルローでも十分な場面があります

ただし、すべての断裂にブリッジングが圧勝、という話でもありません。

平均1.8cmの断裂を対象にしたランダム化比較試験では、1年時点のMRI所見と機能成績に、シングルローとダブルローで有意差はありませんでした[44]

小さい断裂で、腱の状態も良い場合、シングルローで十分な場面はあります。

一方で、中〜大断裂や若くて治癒率を重視したい症例では、より強い固定を考えたくなります。

55歳未満の中〜大断裂では、double row suture bridgeの治癒率が84%、single rowが61%だったという報告があります[45]。また、前向きランダム化研究で、single rowの治癒率75%に対し、suture-bridgeは93%だったという報告もあります[46]

新しい固定法が全例で圧勝ではない、という冷静さも必要です

新しい方法、強そうな方法を見ると、それが絶対に良いと思いたくなります。

でも、腱板断裂の手術はそんな単純ではありません。

10年追跡のランダム化比較試験では、double rowのWORCは統計学的には良かったものの、臨床的な差は大きくないとされました[47]

つまり、固定法は大事です。でも固定法だけで全てが決まるわけではない。

断裂の大きさ。

腱の質。

骨の質。

筋肉の萎縮。

術後リハビリ。

患者さんの活動性。

手術の正確さ。

こういったものが全部合わさって、結果が決まります。

腱板断裂の手術では「強く引っ張ればいい」わけではありません

腱板断裂の手術というと、切れた腱を元の場所までグイッと引っ張って縫えばいい、と思うかもしれません。

でも、ここが手術の本質です。

強く寄せればいいわけではありません。

術中repair tensionは治癒と逆向きに相関し、12.7か月時点で18.2%にhealing failureを認めたという報告があります[48]

大断裂では、35N以上のrepair tensionが再断裂予測因子で、AHI 6.6mm未満も関連したと報告されています[49]

さらに、高いrepair tensionでは腱板内のmicrovascular blood flowが低下することも示されています[50]

つまり、強く引っ張ると、力学的にも生物学的にも不利になることがあるんです。

「届いたから縫えた」ではなく、「無理のない張力で、血流を残しながら、治る可能性のある状態で固定できたか」。ここが大事です。

大きい断裂では、パッチや補強材を考える場面もあります

大断裂では、腱板をただ引っ張って固定するだけでは厳しい場合があります。

その場合、補強材、パッチを使う考え方もあります。

大断裂の前向き単盲検ランダム化比較試験では、allograft patch augmentation群の再断裂率は9.1%、対照群は38.1%でした[51]

もちろん、パッチを全員に使うわけではありません。適応があります。

ただ、腱板断裂の手術は「アンカーで縫うだけ」ではなく、腱の質や張力を見て、補強を考える場面もある。これは知っておいていいと思います。

腱板断裂の手術時間は、短ければ雑、長ければ丁寧、ではありません

手術時間についても、患者さんは気になると思います。

「時間をかけてくれた方が丁寧なんじゃないですか?」

「早いと雑なんじゃないですか?」

そう思いますよね。

でも、関節鏡手術では、必ずしもそうではありません。

手術時間が長いということは、麻酔時間も長くなります。腫れも増えます。体への負担も増えます。

鏡視下腱板修復では、手術時間が15分延びるごとに30日以内合併症リスクが上積みされ、operative timeは有害事象の独立因子だったと報告されています[52]

もちろん、大きい断裂、難しい断裂、追加処置が必要な場合は時間がかかります。それは当然です。

ただ、一般的な断裂で毎回1時間半、2時間が普通という場合は、少し長いかなと感じることがあります。

大事なのは、必要な処置を省かないこと。

でも無駄な操作をしないこと。

丁寧さとスピードは、対立するものではありません。経験を積むと、丁寧に、かつスムーズにできるようになります。

肩関節鏡手術は、経験数がかなりものを言います

肩の関節鏡手術は、ラーニングカーブが長い手術です。

1人の術者の最初の100例を追った研究では、最初の10例で手術時間が大きく短縮し、その後も100例まで改善が続きました[53]

さらに1600例の解析では、初期の平均手術時間は約35分、約450例で20分前後に落ち着き、長い手術は再断裂と弱く相関しました[54]

つまり、10例や100例だけで終わる話ではなく、かなり長いスパンで上達が続く手術です。

また、New York州データベース研究では、低いsurgeon volumeは1年以内revision rotator cuff repairの独立リスク因子でした[55]

もちろん、若い先生だからダメ、という話ではありません。

医療はチームです。経験のある先生が一緒に入り、チームとして質を担保しながら若い先生も学んでいく。それは大事なことです。

患者さんとしては、「担当医が若いかどうか」だけでなく、肩関節鏡手術をチームとしてどれくらい行っているか、説明が丁寧か、術後リハビリまで含めて見てくれるか。そこを見ていただくといいかなと思います。

腱板断裂の術後リハビリは、手術そのものと同じくらい大事です

腱板断裂の手術は、穴をふさいで終わりではありません。

そこから腱と骨がくっつくまで守る。

でも、肩が硬くなりすぎないように動かす。

そして、最終的に肩をうまく使えるように戻していく。

この術後リハビリが、ものすごく大事です。

術後は「守る」と「固まらせない」のバランスです

腱板を縫った後、再断裂してしまったら困ります。だから安静が必要です。

一方で、まったく動かさないと肩は硬くなります。癒着して、可動域が落ちて、凍結肩のような状態になりやすいです。

ですので術後リハビリは、守ることと動かすことのバランスです。

小断裂、中断裂なら比較的早めに受動運動を始めることがあります。大断裂や、何とかぎりぎり修復できたような断裂では、動かし始めを遅らせることもあります。

腱板修復後の早期運動開始と遅延開始を比較したRCTのメタアナリシスでは、早期受動運動・早期能動運動ともに可動域で有利で、再断裂率に有意差はみられませんでした[33]

一方で、別のメタアナリシスでは、6か月・12か月の痛み、SST、治癒率、再断裂率に明確な差はなく、カレンダー固定より臨床所見に応じた柔軟な進行が提案されています[34]

つまり、「早く動かせばいい」「長く固定すればいい」の二択ではありません。

その断裂、その修復、その患者さんに合わせて進めることが大事です。

痛みを無視して動かしすぎるのも、痛いから全く動かさないのも違います

術後のリハビリで難しいのが、痛みとの付き合い方です。

痛みを無視して、ひたすら動かす。

これはよくありません。

一方で、痛いから全く動かさない。

これも硬くなりやすいです。

基本的には、自分の力で無理に上げるのではなく、反対の手で支えたり、仰向けで重力を使ったりしながら、力を抜いて受動的に動かすところから始めます。

ただし、断裂サイズや修復の強さで変わります。全員同じプロトコールでは危ないです。

全層断裂修復後120例のRCTでは、術後24時間以内から受動運動を始める群が、6週間固定後に開始する群より6か月時点で痛み、UCLAスコア、可動域、こわばりで優れ、再断裂率に有意差はありませんでした。ただし再断裂はすべて3cm超の大断裂かつ高度脂肪変性例でした[37]

ここから言えるのは、管理された早期運動は有利な可能性がある一方で、大断裂や脂肪変性が強い例は慎重に扱うべき、ということです。

術後リハビリも、自宅での継続が本体です

術後リハビリも、通院だけで完結するものではありません。

監視下理学療法とホームエクササイズを比較したレビューでは、術後3か月時点の痛みやConstant-Murley scoreに、臨床的にも統計学的にも有意差はありませんでした[35]

巨大腱板断裂修復後でも、ホームベース群と監視下理学療法群で、最終フォローの機能、可動域、治癒率、満足度、合併症、仕事復帰率は概ね同等だったという報告があります[36]

もちろん、だから通院不要という話ではありません。

通院は、やり方を確認し、進行を調整し、痛みや硬さに応じて修正する場です。

でも、リハビリを「通院イベント」にしてはいけません。自宅で毎日やることが本体です。

腱板断裂は何科に行くべきか。肩を得意とする整形外科医に相談したい症状

腱板断裂が心配なときは、整形外科です。

ただ、肩は診断が難しいです。MRIを見れば誰でも同じ判断になる、というほど簡単ではありません。

腱板が切れているか。

どこが切れているか。

部分断裂か全層断裂か。

どれくらい引けているか。

筋肉の萎縮や脂肪変性はどうか。

手術した方がいい断裂か。

リハビリでいけそうか。

首や他の病気ではないか。

ここは、肩をたくさん診て、肩の手術も経験している医師の判断がかなり大事です。

肩痛における腱板疾患の身体所見については、painful arc、外旋抵抗痛、lag signなどの診察所見が整理されています[11]。急性肩外傷でも、腕を90度以上外転できないことと外旋筋力低下の組み合わせが、全層腱板断裂などの検出に有用と報告されています[26]

つまり、画像だけではなく、診察が大事です。

早めに相談したい腱板断裂のサイン

次のような場合は、早めに相談してください。

  • 転倒や脱臼のあとから肩が上がらない
  • 夜眠れないほど肩が痛い
  • 痛い方を下にして寝られない
  • 小さく前ならえから外に開く力が明らかに弱い
  • 自分では腕が上がらないが、他人が上げると上がる
  • 二の腕外側の痛みが続く
  • 肩が赤く腫れて熱を持っている
  • ポパイサインが出た
  • 肩のてっぺんにこぶがあり、肩の痛みや動かしにくさもある

特に外傷後の肩痛は、五十肩扱いで長く引っ張らない方がいいです。

腱板断裂でやってはいけないこと

腱板断裂で絶対に全部禁止、という動作は人によって違います。

ただ、避けたい考え方はあります。

痛み止めを飲んで無理に使い続ける

痛み止めで一時的に楽になるのはいいです。

でも、痛み止めを飲んで、頭上作業や重いものを無理に続ける。これはおすすめしません。

痛みが消えたことと、肩が治ったことは違います。

何年も画像チェックなしで放置する

症状が軽いから経過観察。これはあります。

でも、断裂があるのに、5年、10年、何も見ない。これは避けたいです。

腱板断裂は広がることがあります。広がってからでは、修復が難しくなることもあります[9][15][32]

「再生医療で治るかも」に過度に期待する

部分断裂の痛みに対してPRPを試す、という考え方はあり得ます。

でも、全層断裂が再生医療でふさがると期待して、必要な手術相談を先延ばしにする。これは注意が必要です。

高い治療ほど効く、というわけではありません。

痛いからまったく動かさない

痛みが強い時期に無理する必要はありません。

ただ、まったく動かさない期間が長いと、肩が硬くなります。五十肩のような拘縮が重なると、治療がさらに難しくなります。

どこまで動かしていいかは、断裂の状態によります。主治医や療法士と相談しながら進めるのが安全です。

腱板断裂のよくある質問

腱板断裂は自然に治りますか?

部分断裂で症状が落ち着くことはあります。ただ、明らかな全層断裂の穴が自然にきれいにふさがることは期待しにくいです。

痛みが減ることと、腱板が治ったことは別です。

腱板断裂でも腕が上がることはありますか?

あります。

腕が上がるから腱板断裂ではない、とは言えません。腱板断裂でも上がる方は多いです。

逆に、自分では上がらないけれど他人が上げると上がる場合は、大断裂のサインになることがあります[14]

腱板断裂は全員手術ですか?

全員手術ではありません。

非外傷性の全層断裂でも、標準化された理学療法で長期に良好に過ごせる方はいます[27][28]

ただし、外傷性断裂、複数腱断裂、夜間痛が続く、筋力低下が強い、断裂が拡大している、若くて活動性が高い。こういう場合は手術を考えることが多くなります[31][32]

リハビリだけで十分ですか?

十分な方もいます。

ただ、リハビリは腱板の穴をふさぐ治療ではありません。残った筋肉や肩甲骨まわりを使って、肩をうまく使うための治療です。

6〜12週くらいで反応を見て、良くならないなら次の選択肢を考えます[27][28]

手術したら元通りになりますか?

手術は腱板を骨に戻して、くっつく可能性を作る治療です。

ただし、元通りを保証するものではありません。断裂の大きさ、腱の質、筋肉の萎縮、張力、術後リハビリなどで結果は変わります[48][49][50]

だからこそ、早すぎる手術も、遅すぎる手術も避けたい。相談しながらタイミングを決めるのが大事です。

まとめ|腱板断裂は「切れているか」だけでなく、症状・時間・将来を見て考えます

腱板断裂は、肩のインナーマッスルの先端の腱に穴が開いてくる状態です。

年齢とともに増えます。肩が痛くない人にも見つかります。一方で、夜眠れないほど痛い方、外傷後に腕が上がらない方、外旋筋力が落ちている方もおられます。

つまり、腱板断裂は「切れているかどうか」だけで判断する病気ではありません。

今どれくらい困っているか。

外傷性かどうか。

断裂がどれくらい大きいか。

筋肉がどれくらい傷んでいるか。

リハビリで改善しているか。

将来その肩をどう使いたいか。

この全部を見て、手術か、リハビリか、経過観察かを考えます。

注射や薬は痛みを和らげる助けにはなりますが、腱板をくっつける治療ではありません。リハビリは残った機能をうまく使う治療です。手術は腱板を骨に戻して治癒を目指す治療ですが、術後リハビリまで含めて初めて治療です。

「腱板断裂と言われたけれど、どうしたらいいか分からない」

その不安は自然です。だからこそ、肩を得意とする整形外科医に相談して、自分の断裂がどういうタイプなのかを整理してください。

何でも手術ではありません。

でも、本当の放置もおすすめしません。

自分の肩を長く使っていくために、今の状態をちゃんと知る。そこから始めていただければと思います。

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編集元資料:

→肩とスポーツの整形外科専門医 歌島大輔オフィシャルサイト

→電子書籍:肩の正解を導き出す「SHOULDER RULE」

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