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鎖骨骨折の手術法をわかりやすく解説
鎖骨は細く弯曲した形状をしているために、小児から大人まで幅広い年代で骨折を起こしやすい骨として知られています。この鎖骨が折れてしまったときの治療法選択においてはいくつか考えるべき要素がありますので、鎖骨という骨の基礎から順々にわかりやすく解説していきたいと思います。
特に肩を専門とした外来をしておりますので、鎖骨の中でも肩に近い、鎖骨遠位端骨折についてのご相談をいただくことが多く、手術に至ることも少なくありません。そのため、鎖骨遠位端骨折に対する治療についてはより詳細にお話いたします。
さらに関連する情報や詳しい情報をお知りになりたい方はこちらのホームページもご参照ください。
鎖骨の役割
鎖骨という骨はご存じだと思いますが、なぜ、このような骨があるのでしょうか?この位置に、この細い骨がなぜ必要なのか?というところから考えてみたいと思います。
体幹と肩甲骨をつなぐ唯一の骨
例えば、体幹(背骨や内臓がある部位)と脚を繋ぐのは大きな骨盤という骨であるわけですが、腕(肩甲骨)と体幹は鎖骨を介して(更に言うと、肩鎖関節を介して)連結しています。あの細い骨だけなんですよね。
だからこそ、折れやすいと言えるかもしれません。
鎖骨の下には大切な血管や神経
鎖骨の後から下にかけて、腕を栄養する大切な血管や、腕・手の動きを司る神経が通っています。これらが損傷してしまうと一大事ですから、これらを守る役割もあると考えられます。しかし、それは同時に骨折してしまった時に、これらの血管、神経が無事かどうかを確認することが大切ということになります。
つまり、腕の血の巡りはいいか、しびれはないか、動きはいいか・・・などをしっかりと確認することですね。
鎖骨骨折は3種類に分類される
この鎖骨骨折は骨折部位によって3種類に分類されます。
鎖骨というのは体幹は胸骨(きょうこつ)という胸のど真ん中の骨と連結し(胸鎖関節:きょうさかんせつ)、肩では肩甲骨の肩峰と呼ばれる部位と連結(肩鎖関節:けんさかんせつ)しています。
- この胸骨に近い部位の骨折を鎖骨近位端骨折(さこつきんいたんこっせつ)
- 鎖骨の真ん中あたりの骨折を鎖骨骨幹部骨折(さこつこっかんぶこっせつ)
- 肩に近い位置あたりの骨折を鎖骨遠位端骨折(さこつえんいたんこっせつ)
という名称がついています。
鎖骨骨折の保存治療
この鎖骨骨折を手術しないで治療する(保存療法)場合は、
- 骨折のズレが小さいケース
- お子さんの骨折(骨のくっつきがいいこと、自家矯正力という元に戻ろうとする力が働くこと)
- 何らかの理由で手術ができないケース
これらが代表的です。
鎖骨バンド(クラビクルバンド)
鎖骨バンド、クラビクルバンドと呼ばれる肩から背中、腋(わき)の下にかけて8の字状に巻くタイプのバンドを使っていただくことが多いです。
これをしっかり巻くと、胸が張られるような姿勢になります。すると、肩甲骨が外側に移動して、胸骨と肩甲骨の距離ができます。つまり、鎖骨が引っ張られるわけですね。骨折の整復の基本は「牽引する」ということです。骨を長軸方向に引っ張れば、ズレて曲がってしまった骨折も元に戻る方向になります。これは特に骨折部分で短縮しやすい鎖骨骨幹部骨折で効果的です。
三角巾などで腕の重さを支える
三角巾や装具などで腕の重さを支えてあげることもよくやります。
特に鎖骨遠位端骨折では肩よりの骨折なので腕の重みが骨折部がズレてしまう方向に働きます。
そういう意味では鎖骨遠位端骨折ではこの三角巾や装具などでの腕の重みを支えることを重視しています。
テーピングなど
補助的にテーピングで鎖骨骨折部のズレを整復するようにテープを貼ることもありますが、骨折のズレをテープで矯正して維持するのは正直無理があると考えています。おそらくテープを貼った皮膚が先に悲鳴を上げてしまうのではないかと思いますので、私はテーピングはやっておりません。
鎖骨遠位端骨折(外側端骨折)の手術法
この鎖骨遠位端骨折の手術方法に移りますが、まずは鎖骨遠位端骨折です。これは肩に近い部位の骨折だとお伝えしました。厳密に言うと、肩鎖関節に近いところです。
それゆえ、性質的には鎖骨遠位端骨折と肩鎖関節脱臼は似ています。特に似ている点は靭帯(じんたい)の損傷の有無が大切だということです。
その靭帯とは烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)と言って、肩甲骨の烏口突起(うこうとっき)という部分と鎖骨を繋いでいる靭帯で、これが損傷してしまうと、鎖骨の骨折部のズレが大きくなってしまうということです。
逆に言うと、この靭帯さえしっかりしていれば、鎖骨遠位端骨折のズレは小さく安定するということが言えますので、私の得意とする手術は関節鏡を中心として、この烏口鎖骨靱帯を補強するように強いテープ状の糸を通して、結ぶ方法です。これだけで鎖骨の骨折部は整復されて、安定します。
ただし、骨折のズレ方や骨の折れ方(粉砕型など)も様々ですから、ワイヤーで骨折部を巻いたり、大きめの板状の金属(プレート)を鎖骨の上に設置して固定したりすることもあります。
鎖骨骨折は基本的には骨のくっつき(骨癒合:こつゆごう)が良好な骨なので、多少のズレは許容されるのですが、鎖骨遠位端は骨が平らな形状になっていき、骨のくっつきも骨幹部に比べて悪く、偽関節(ぎかんせつ)という骨がくっつかない後遺症になることも少なくないという厄介な特徴があります。
そのため、手術を積極的に行う傾向があります。
鎖骨骨幹部骨折の手術法
次に最も多い鎖骨骨幹部骨折です。細長い骨ですから、力学的にもその真ん中あたりで折れやすいわけです。
鎖骨遠位端骨折に比べて、骨のくっつきがいい場所なので、多少のズレでも最終的にはくっついてくれます。
ただ、ズレが大きければ、骨がくっついたときも変形が残りますし、本来の鎖骨よりも短くなってしまうこともあります。それにともなう、美容上の問題や肩甲骨の位置の異常、動作の異常(日常生活レベルで困ることは少ないです)などをどう考えるか、というのも1つの判断材料です。
手術法は骨折部分を貫くように鎖骨の中に心棒を通すような方法で太めのキルシュナー鋼線を通す方法と、板状の金属(プレート)を設置する方法があります。
前者をK-wire固定、後者をプレート固定と呼んだりします。
K-wire固定は小さな創(きず)でできますが、多少のズレや短縮が残りやすい。
プレート固定は創は大きくなりますが、よりもとの形に近い状態で固定できる。
というおおまかな違いがあります。
鎖骨近位端骨折は珍しい
鎖骨近位端骨折は胸骨よりの骨折で、とても珍しいです。それゆえ、時に見逃されてしまうこともあるので、首の根本、胸骨の左右あたりに痛みがある場合は注意してほしいのですが、CT検査で細かく骨折がわかります。
鎖骨近位端骨折の周囲には食道や血管、気管など本当に大切な組織(縦隔組織:じゅうかくそしき)があり、時に圧迫したり損傷したりしてしまうので、このCT検査はそういった意味でも重要です。
まとめ
肩鎖関節脱臼の基礎知識から治療法までを解説いたしました。少しでも参考になりましたら幸いです。
結局、手術をするか、しないか・・・という部分で迷うことが多いかと思いますので、ご相談も含めて受診を検討していただければと思います。